2024/12/05

熊1頭の駆除から、全国の野生動物の駆除も少し考えてみる(2025.01.13加筆)

 
 
 画像は、熊の革の漉き落としの床を集めて固めものです。
無駄にせずに形にしたいという思いがあります。
 
 東北ではツキノワグマの生息数が多く、近年は熊に関したニュースが多くなりました。私の住む秋田は熊による人身被害が近年多発しており、市街地に出た熊の駆除が全国ニュースになることも何度かありました。
 
 街中に出没する熊が増えましたが、たとえ街中での銃の発砲を認める法改正が行われても、街の中で簡単に銃猟ができるわけではありません。跳弾・撃ち損じ・設備の破壊・熊の反撃や暴威など、 様々なリスクが伴います。簡単な解決法も対処法も無いのだと思います。
 
 慎重にことを進めて駆除するしかない現実の中で、地元の関係者は街に現れた熊に対して堅実な対応をしていると思います。
 
 ですが、ごく一部の方からだと思いますが、熊の駆除に対して苦情の電話やメールが寄せられることもまた、そのたびにニュースになっています。苦情を寄せる人の思考法や心理がどのようなものなのか理解できませんが、駆除は当然のことだと私は思いますし、同様に駆除を当然と考える方も多いと思います。
 
 突発的な熊の出没に対応するだけでも大変ですし、目先の駆除だけではなく今後さまざまに考え対応していかなくてはならないことが山ほどある中で、自治体の担当者などが困らないように、わざわざ遠方からの苦情は控えていただけないものかと思います。
 
 熊の捕殺数は、例年全国で数千頭規模です。熊の出没が過去に例を見ないくらいに多かった令和5年度でも、北海道のヒグマを合わせても1万頭を超えてはいません。
 
 野生動物で捕殺数が多いものには、イノシシとニホンシカがあります。害獣駆除や生息数の調整のために捕獲されるイノシシは、例年40万頭以上にのぼり、狩猟による捕獲も合わせると全国で毎年50万頭以上のイノシシが捕獲されています。また、害獣駆除や生息数の調整のために捕獲されるニホンシカは、例年50万頭以上で、狩猟も合わせると毎年70万頭以上のニホンシカが捕獲されています。それとは別に北海道のエゾシカも、近年は年間13〜14万頭捕獲されています。
 
 これらの捕獲される野生動物は、ジビエ肉などとしての利活用が必要とされていますが、実際には野生動物の肉の流通は難しく、多くは廃棄されていると思います。捕獲後の野生動物は、焼却か埋設が基本的な処分法です。解体まで手が回らず、そのまま焼却されている場合も多いと思います。
 
 熊の駆除について苦情を寄せる方は、県外に住んでいる方が多いそうです。その人が住む地域は、熊の駆除が少ない地域かもしれませんが、もしかしたらイノシシやニホンシカはたくさん駆除されている地域かもしれません。ニュースにならないほど当たり前に、同じ野生動物の捕殺が行われていないか、一度地元のこともお調べいただければと思います。苦情を寄せられた方の住む県でも、千頭・万頭単位で熊以外の野生動物が駆除されていることもあろうかと思います。遠くの1頭の熊の駆除について考えることが、お近くの地元の野生動物の駆除についての知識を得たり考えたりするきっかけになってくれると良いのではないかと思います。
 
 大昔のことは置いておいての話になりますが、秋田では以前はイノシシとニホンシカは生息していなかったので、 野生動物の駆除や捕殺の多くはツキノワグマでした。猟師さんたちは、山からの授かりものとしてほぼ全頭を解体していると思います。
 
 ですが、10年ほど前からイノシシとニホンシカの目撃例が秋田県内でも増えてきて、今では秋田県全域にイノシシとニホンシカが生息し頭数を増やしており、捕獲数も年々増えています。熊よりも、繁殖力は大きいと思いますし、山の環境や農作物へ被害を与える力も、熊よりも大きなものだと思います。
 
 イノシシとニホンシカの捕獲は熊の捕獲とは異なる技術が必要になるので、急速な人口減少と高齢化とハンター人口の減少の中で、今後の新たな事態に対応していくのは、かなり大変なことだと思います。お隣の岩手県では、年間3万頭近いニホンシカが駆除されていますし、イノシシの駆除数も増えて年間1500頭以上のイノシシが駆除されているようです。熊への対応だけでも困難さを増している中で、今後は秋田でもイノシシとニホンシカは確実に増えると予想されます。
 
 私の素人予想ではありますが、熊と同等かそれ以上にイノシシとニホンシカの問題に直面するまでの時間の猶予は、それほど無いだろうと思います。イノシシとニホンシカによる農業被害額は桁違いに増えると思いますし、人身被害も起こるのではないかと思います。さらなる野生動物の脅威が迫ってくる中で、他県の先例も研究して、どのような対応が可能なのかを考えて準備するしかありません。行政・自治体の担当者には、工夫して現実としてできる方法を探っていただきたいと思います。駆除に対する遠方からの苦情への戸惑いは大きいと思いますが、内なる問題への取り組みが最優先されるものと思います。
 
 山からの授かりものとして、熊に関してはほぼ全頭解体を行い、最低でも肉をいただくということを行ってきた秋田のマタギ文化がありますが、イノシシやニホンシカの駆除数が増えた場合は、解体せずにそのまま焼却処分せざるを得ない事態が増えるかもしれません。

 野生動物と人が対峙しなくてはならないのは、昔も今も変わらないことだと思います。ただ棄てるのではなく、命をいただくということを当然のこととして実践していくことが必要なのだろうと思いますが、それは簡単なことではありません。
 
 命をいただく中には、野生の動物の皮を使うということも含まれていると思いますし、できることがあれば私も皮の活用に関わることができればと思います。 
 
 
 
 
 固めた熊の革の中には重りが入っています。
  
 現実を見れば、言葉で言うほど、野生動物の皮の活用は簡単なことではありません。授かりものを活かし切るという強い意志のある人がいなければ、皮の活用など全くできません。家畜と異なり、野生動物の命をいただき活用するための仕組みは整っていないので、個人の熱意が頼りのところがあるのです。
 
 生きているときからその動物と関わり、汚れる仕事も厭わず、多くの手間と時間と費用をかけることに耐えられる人がいて、さらに周囲の関係者の理解と協力があって初めて皮の活用に道が開かれます。野生動物の問題は、すでに社会問題化しているものですので、本来は行政や自治体の主体的な取り組みも必要だと思いますが、まだそういった取り組みや準備は不十分な状態です。
 
 
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 全国で毎年数多くの野生動物が駆除されているのが実情です。イノシシとニホンシカと熊の捕獲数を少し調べただけですが、実に多くの頭数が捕獲されています。タヌキ・アナグマ・アライグマ・ハクビシン・キョンなどの、他の動物も合わせた野生動物の捕獲数は年間で百数十万頭以上といった、相当の数字になるのではないかと思います。(近年のデータは見つけることができませんでしたが、ニホンザルも毎年1万頭程度は駆除されているようです。)
 
 数字は仮のものになりますが、1/1,500,000 (150万分の1)頭の秋田の野生動物の駆除について考えることは、貴重な機会なのかもしれません。1頭の駆除から考え始めることで、今そして将来の野生動物と人との関係性や駆除について、いろいろなことを知り考えることができるのではないかと思います。野生動物の駆除は遠くの出来事ではなくて、身近な事実として全国で広く行われているものですので、誰もが当事者だと言えるのだと思います。1頭の駆除を考え、そして万の頭数の駆除についても考える。そうすれば苦情とは異なる考えや思いが出てくるかもしれません。
 
 熊の駆除について考えるときには、その地域に生息していると想定される熊の頭数についても考えていただきたいと思います。地域に数十頭・数百頭の生息が想定される地域と、数千頭の生息数が想定される地域では、自ずと対応の方法に違いが出ると思うのです。
 
 日本史という大きなときの流れで見れば、早い時期から日本の歴史の中心として発展した西日本では、木の伐採等で人による自然環境への負荷が早期に始まり、東北地方などと比べると山の環境変化や荒廃が歴史的に早く進んだ地域だと思います。現在の熊の生息数も少なくなり、自然環境の分断により個体群が別れた結果、絶滅が危惧されている個体群が複数あるようです。
 
 秋田をはじめ、東北のツキノワグマの生息数は多いわけですが、それは人と自然の共生が、過去から現在まで継続されている結果だと思います。いくつかの資料を見る限りの個人的な感想ですが、長い年月に渡る人の影響を受けて危機にあるのは、東北の熊よりも、西日本の生息数の少なくなっている熊なのだと思います。そしてもちろん、生息数の比較的少ない都道府県でも、熊の害獣駆除や殺処分は行われています。
 
 全国的には熊の生息数は増加傾向にあり、西日本でも個体数の増加により、熊の個体群の絶滅の恐れが解消されたと考えられる事例もあるようです。学習放獣を多く実施していた県でも、個体数の増加に合わせ、有害捕獲を基本的に殺処分とする対応に変えている事例などもあり、状況に合わせて全国の自治体が熊の駆除を行っています。
 
 秋田では、熊の禁猟をしていた時期があり、その後の現在では多くの熊が出没する状況になっています。 日本全国で毎年多数の野生動物が捕獲されていますが、ただむやみに野生動物を駆除している地域も自治体も無いのだと思います。
 
 秋田には熊の出没・目撃情報を表すマップがありますが、目撃例が多い地点の熊の生息数が必ずしも多いとは言えません。人が多く通る地点で、熊の目撃情報が多くなる傾向があります。それはつまり、人が多いところにまで、熊が出没するようになっているということであり、生息域が確実に広がっているということを表しています。
 
 
(あきた森づくり活動サポートセンターのサイト内)
 
 山間部などのもともと熊の生息数や出没数が多い地域では、熊が居たとしても、それが当たり前という認識もあると思います。人が熊を目撃したとしても、いちいち目撃情報を通報したりマップに書き込んだりしていないことも考えられますし、目撃する人の存在が希薄であるために、目撃例が自ずと少ないということも考えられます。そういったこともあり、マップは地域の熊の生息数を表すものではありません。マップにはイノシシとニホンシカの目撃地点も表示されますが、目撃情報が増加しており、熊を筆頭に野生動物が人の生活圏に近づいてきている現在の状況が読み取れるものです。
 
 目撃情報・出没情報の少ない山の中に、多数の熊が生息していると思いますが、生息数の増えているイノシシとニホンシカとの餌の取り合い・縄張り争い・生存競争という状態が、新たに生まれつつあるかもしれません。山の環境も変わってきているのではないかと、そんな想像もしています。
 
 野生動物を、愛玩動物のように考えていられるほど、人間は強い存在ではないのだと思います。いつでも野生動物の保護者として振る舞えるほどに人が強くないとしたら、やはり負けないように自分の生活圏を守り、そして命をいただくことを肯定的にとらえていくべきなのではないかと思います。

 共生や野生動物の保護、自然環境の保全を否定的に考えるわけではありません。共生の中には、人が生活圏を守り戦うことも含まれていると思います。自衛の守備的なものが中心になると思いますが、どのような戦術で戦っていくのか、現実的なやり方を見つけていくしかないのだと思いますし、早めに手を打っていかないと、大変なことになるのではないかと思うものです。