2024/08/05

区域区分(線引き)の廃止という選択 2025.01.19加筆

 
 上の図は、市街化調整区域の環境の維持のための対策が、社会の状況により異なるということを表したものです。右肩上がりの成長期の社会で大規模な開発が活発に行われていた時代には、農村地域の無秩序な開発を防ぎ環境を維持するために厳しい制限が必要だったのだと思いますが、現在の下り坂の衰退期の社会では、逆にある程度の開発緩和を認めて地域の土地や空き家の利活用を推進しないと、地域の維持を図ることができないことを表した図です。市街化調整区域の環境の維持は、開発の厳しい制限という手法では難しい状態になっていると思います。
 
 さまざまな課題のある地域づくりのために、秋田市で今後できることは限られていると思いますが、市街化調整区域でできそうなことを書いてみたいと思います。簡潔に言うと、タイトルにもある通り、区域区分(線引き)の廃止、市街化調整区域の枠組みをやめる選択の検討も必要ではないかという内容です。
 
 文中に「開発」という言葉が出てきますが、家や小さな店舗の建設などの小規模な建築等、一般市民の身近な行為も含む意味の言葉です。現在の市街化調整区域では、そうした個人の私権とも言える小さな開発も厳しく制限されています。
 
 農家であるという属人性に基づいてさまざまな規制が定められている市街化調整区域には各種の厳しい制限がありますが、それは現在の社会には不適切な時代遅れのものになっているのが現実だと思います。農村地域でも市街地でも社会全体が揺らいでおり、著しく人口が減り高齢化・過疎化する市街化調整区域の制限は、すでに現在の社会に合っていないと思うのです。また、農業も法人化が進められており、日々新たな技術の導入も図られている時代ですから、個人の農家が代々そこに住んで家族単位で営農することを想定して決められた制限は、農業の在り方の変化を考えても見直しが必要なのではないでしょうか。
 
 区域区分(線引き)による市街化調整区域の役目は終わりに近づき、現在では地域づくりの足かせになっていると思います。実際に区域区分を廃止した、あるいは廃止を検討している県や市などの自治体は全国にいくつもあります。「区域区分 廃止」という言葉で検索すると、いくつものページが表示されます。

 その中で私にとってわかりやかったのは、すでに8年前の平成28年(2016年)に区域区分を廃止した京都府綾部市の事例です。
 

 綾部市が公開している区域区分の廃止についてのpdfの資料はたいへんわかりやすく、人口規模等は異なりますが、具体的な事例として秋田市に当てはめて参考にしやすいものです。(面積や人口は潟上市と似通っています。地形的には、山地も多い秋田市と通じるものがあると思います。)
 
 綾部市の区域区分の廃止は、市街化調整区域だけではなく、市街化区域の課題解決も意図したものです。市街化区域と市街化調整区域の指定がなくなり、市街化区域では用途地域を継続しながら用途制限や容積率制限を一部緩和し、市街化調整区域では新たに「特定用途制限地域」を設定し、さらに「特定用途制限地域」の中に「田園居住地区」と「特定沿道地区」を設定して、都市計画や開発をコントロールする手法です。区域区分に頼らずとも、まちづくりを考える方法はいくつもあります。 

 綾部市の資料の中で注目したい単語は「特定用途制限地域」です。「特定用途制限地域」は用途地域の定められていない地域に対して、地域の実情や特性に合わせて自治体が用途の制限などを定めることができます。秋田市も、やろうと思えば独自に用途制限の内容を定めて地域を指定することができるということです。
 
 また、綾部市が定めた 「田園居住地区」と似た言葉に、用途地域の一つとして定められている「田園住居地域」があります。用途地域の「田園住居地域」の用途制限は、第一種低層住居専用地域に準じる内容が多く制限が厳しく、それに加えて農業関連の事業がある程度認められるような内容ですが、綾部市の 「特定用途制限地域」の下に定められている「田園居住地区」では、第一種住居地域と同等の開発が認められており、農業関連という縛りも無く、狭い地域内だけを顧客範囲としなければならない市街化調整区域の1号店舗のような制限もなく、法人でも個人でも郊外の広い土地などのメリットを十分に活かして活用できる内容だと思います。近年の地域活性化のキーワードである関係人口や交流人口を増やすことにつながる活動も、十分な自由度で行うことができます。
 
 現在の市街化調整区域では、その地域の住民を対象とした日用品販売の店舗しか許可対象になりませんが、規制が緩和されて開発が認められれば、さまざまな業種の店舗・事務所・宿泊施設や、塾などの教育関連の事業所や、ICT関連等の時代の変化の中で生まれる新しい業種の事業所などの開設の可能性が広がります。私自身の関係するクラフトの世界で考えると、現在の市街化調整区域では不可能なクラフト関係の小規模な工房等の集積なども可能になります。もちろん、農家でなくても家の建築もできます。ある程度の規模の開発が認められると同時に、小規模な開発での自由度も格段に向上します。「特定沿道地区」では認められる開発がさらに緩和されます。
 
上の画像は、綾部市の資料をパソコンに表示したスクリーンショットです。
 
 綾部市の「特定用途制限地域」の規定は、田園地域の環境を守りつつも地域の存続のためにはある程度の開発を認めることを、自治体や地域住民が自らの責任で考え決める姿勢が鮮明に感じられます。開発緩和をするだけでなく、地域の住民がその地域のまちづくり計画を主体的に策定できる制度も定められていますし、無秩序な開発を防ぐために事前に事業者が地域住民と市と協議する要件なども定められています。田園地域や農山村などの既存の枠組みを守りながら、大きな枠組みとしては適度な開発を認めていくわかりやすく合理的な内容が、難しい言葉を使わずに簡潔にまとめられていて、たいへん参考になります。
 
 綾部市の「田園居住地区」は、市街化調整区域と比べるとできることが格段に多くなりますが、実は秋田市が都市計画法第34条12号で河辺・雄和地区の幹線道路沿い100メートルの範囲だけに認めている緩和内容は、住宅等の建築が認められないことを除けば綾部市の「田園居住地区」と同程度の開発が可能です。平成の合併後に河辺・雄和地区での新たな市街化調整区域の指定によって急激な開発制限が起こることを緩和する措置によるものですが、秋田市は同じ市街化調整区域でも緩和内容の地域差が極端に大きくなっており、市民に対して公平性に問題がある制度で業務を行っている状態にあると思います。(同じ河辺・雄和地区であっても、12号指定から外れていれば、他の秋田市の市街化調整区域と同じ条件になります。)
 
 区域区分の廃止の検討は、合併による地域間の格差や不均衡を解消することも目的に一つになっている場合がありますが、秋田市は合併後の地域間の格差を放置しているような状態だと思います。必要以上に厳しい開発制限はある意味では個人の資産の活用を妨げる私権の阻害であるという考え方もありますので、秋田市内の市街化調整区域の制限が地域によって差がある不公平な状態は、同じ市民なのに私権の制限に不公平が生じているということになると思います。
 
 また、市街化調整区域の家や土地の利活用を考える場合、区域区分の制定される線引き前の建築なのか線引き後の建築なのかも重要になりますが、河辺・雄和地域での線引きは平成26年(2014年)であり、それ以外の秋田市では昭和47年(1972年)になりますので、同じ秋田市なのに42年もの差があります。合併により生じたことだからと問題視されていないのだろうと思いますが、まちづくりは昔の計画で考えるのではなく、いま考えなくてはならないことですから、このような格差も含めて見直したほうが良いのではないかと思います。
 
 市街化調整区域の開発の緩和措置の一つとして都市計画法第34条11号による地域指定がありますが、住宅が50戸程度連たんしていることが条件であり、戸数が少なければ11号の区域指定はされず、小規模な既存集落の成り立ちや歴史的背景などが十分に考慮されるのか疑問に思います。
 
 秋田市の山手台や南が丘などの住宅地は、一般の人も普通に家を建てて使うことができますが、実はどちらも市街化調整区域です。開発業者が森を切り開き、比較的近年に大規模開発した市街化調整区域の宅地は、属人性の制限を受けず使われています。その反面、百年・千年単位の昔から人が住み続けている土地でも、それが市街化調整区域にあり住宅戸数が少ない小規模な既存集落の場合は、一般の人がその土地を使いたいと思っても、都市計画法の定める属人性に基づいた厳しい制限を受けることになります。人が住みやすい自然環境や地理的要件が整った場所だからこそ、長い年月に渡り人が住み続けてきたわけですが、そういった場所でも中央省庁が机上で決めた数の決まりのために、厳しい制限を受けることになるのです。歴史的な人の営みを無視した、中央省庁が決めた基準だけで緩和地域を指定するだけでは、地域の歴史や現状に合わせたまちづくりの施策などできるわけがありません。11号指定ではカバーできない地域の歴史や人の営みがあると思います。また河辺雄和地域の12号指定のように、現在の幹線道路を基準にした一律の緩和指定も、地域の歴史や地理的な特徴を十分に反映する緩和措置にはならないと思います。
 
 秋田市の11号指定の緩和内容は、第一種低層住居専用区域とほぼ同じ用途制限となります。そして、市街地に家を所有している人は11号指定区域に家を持ち使うことができないという決まりもあります。わざわざ開発緩和の中身を乏しくして、柔軟性に欠ける決まりだと思います。地域の振興策として、二拠点生活・二拠点居住・交流人口・関係人口の拡大という言葉を秋田市もさまざまな場面で使っていますが、制度としては市街化調整区域に外から人が来ることを制限することを基本にしています。計画の言葉と制度の整合性が十分では無いのが現実だと思います。 外の人ばかりでなく、市民が市内で実践する二拠点生活があっても良いはずです。それを制限して秋田市にどのような利点があるのか、私にはわかりません。
 
 上記のような秋田市内の不公平・不均衡・不十分な緩和内容を考えても 、人口減少・高齢化・過疎化などの社会問題への対応を考えても、区域区分の廃止を含めて秋田市は考える必要があると思います。全国各地の自治体が行っているのですから、秋田市でも可能だと思います。まちづくりの計画書をコンサル会社に任せないで、自ら考えて柔軟な地域づくりができる制度の実現を目指してほしいです。
 
 区域区分による市街化調整区域の指定は、もともとは国の方針に則って県が主体となり行ったものだと思いますが、秋田市は中核市として各種の権限の移譲を受けているので、 区域区分の今後についても秋田市が主体的に考えるべきものだと思います。人口減少により困難になってきている地域の維持や振興のために、関係人口や交流人口を増やそうという文言が市の資料には記述されていますが、市街化調整区域の制限はそもそも外から人が入ってくることを強く制限しているのですから、まずはその根本的な矛盾を解決することが、自治体に求められる最初の一歩なのではないかと思います。
 
 人に来てほしいのならば、来やすい環境を制度面からも整えるのは当然のことだと思います。根本的な見直しをしなければ、市のまちづくりや農村振興の計画と現実との矛盾が大きくなるばかりだと思いますし、今後の地域づくりを考えるときの選択肢がとても狭いものになってしまうと思います。
 
 秋田が、日本全国で最も深刻な人口減少・高齢化・過疎化に直面していることを考えると、県庁所在地であり県内自治体の中で最も人口減少数が多くなる秋田市が、率先して都市計画や区域区分のあり方を見直すべきだと思います。(秋田市は2050年までに7万人以上人口が減ると予測されています。)現在の厳しすぎる市街化調整区域の制限を見直して、適度に開発を緩和することが秋田市でも必要だと思います。
 
  もしも区域区分を廃止せずに、現状のままで対策を考えるとしたら、市内の市街化調整区域全域に12号の開発緩和指定を広げることや、線引きの前後に関わらず、住宅や宅地を農家でなくても当たり前に利活用できる制度を考えるなどの具体的な措置の検討が、早急に必要だと思います。11号指定の緩和内容の拡大も検討が必要だと思います。近年の不動産の相続や管理を厳格化する施策の実施だけではなく、同時に不動産を使いやすくするための施策の実施も必要だと思います。
 
 一部の市街化調整区域の制限を外して大規模商業開発するような計画を、モデルシティと称して秋田市は実施しようとしています。それが秋田市の各地域にとっても意義のあるモデルになるとは思えませんが、区域区分について根本的な見直しを行い、地域の特性に合わせた開発を柔軟に考えられる地域づくりの新たな制度を提示することは、秋田市全域の未来のために大いに意義のあるものになると思います。
 
 私が市街化調整区域について考え始めたのは、元はと言えば、自分が郊外の市街化調整区域への移転を考えたときに、あまりにも不自由で現実に全く合っていない制度と業務があることを知ったのがきっかけです。自分なりに調べたり考えたりした中で、秋田市は全国的に見ても消極的で古い体制にあるのではないかと思いました。また、すでに内容が古くなっている都市計画法の市街化調整区域の制限の中で、良いとか悪いとかを市民と自治体が論じても仕方ない社会情勢になっているとも思います。本来ならば、そんなことをやってる場合じゃないというのが実感としてあり、もうとっくに次の手が考えられているべき状況にあると思います。
 
 この記事で紹介した綾部市が平成28年に線引きを廃止したのに対して、秋田市はその2年前の平成26年に河辺・雄和地区に新たに線引きを行ったわけですから、自治体によって考え方や業務に大きな違いがあることがよくわかります。区域区分に縛られずに今後の地域づくりを考えて、簡潔にわかりやすい形に整理して市民に提示することが、秋田市にも必要だと思います。都市計画には秋田県も深く関わっていますので、秋田市が今後のまちづくりについて主体的に方向性を定めたうえで、県との調整をしっかり行ってほしいと思います。県庁所在地のまちづくりの根本に関することですので、県も積極的に関わってほしいと思います。
 
 本来ならば、中身が古くなっている都市計画法の根本的な見直しを国が行うのが筋だと思いますが、それが早期にできるとは思えないので、急速な社会の変化に対応するためには自治体が主体的に変えていくしかないと思います。

 区域区分の廃止は、特に極端な考え方ということでもなく、当然考えられる選択肢の一つとして他の自治体でも普通に論議され、また実施されている事例のあることです。さまざまな立場の人と秋田市の市街化調整区域の問題点などの話をしたときに、市街化調整区域だから仕方ないという論調がとても多くありましたが、現在の社会情勢の中で市街化調整区域の制限が当たり前だとは思えません。秋田市でもタブー無く論議して、古い線に縛られずに、新しい線を引いてまちづくりの構想を刷新すれば良いと思います。
 
 市街化調整区域について、秋田市の制度と業務が変わることを願ってしつこいほどに書いてきましたが、行き着くところの区域区分の廃止の選択について書いたところで一区切りにしたいと思います。
 
 専門知識のない素人ですので、複数の記事の中には勘違いしている記述などもあったと思いますが、一連の記事では素人の私が思ったことをそのまま書いてみた次第です。読みやすいものではなかったと思いますが、悪しからずお許しください。