2023/05/26

秋田市郊外の空き家の利活用のための見直し 2023.06.01更新

 家があって小屋があって農地があって
 
2023.07.03
 この記事の中の1.の1号店舗については、見直しが実施されました。詳しくは、後日あらためて書きます。
 
 もともと都市計画法の制限が多く、市役所の業務が古いままであるために、利活用が難しくなっている秋田市の市街化調整区域の空き家ですが、本当はもっと利活用できるようにすることができます。
 
 市街化調整区域の開発などの条件を定めている都市計画法は、1968年に制定された法令で、すでに時代に合わなくなって来ています。特に、現在の急激な社会の変化や、社会問題の深刻化には、対応できなくなっているのが実情です。そのため、自治体ごとの解釈や柔軟な制度運用が認められていますし、開発許可制度の運用指針などの見直しなども行われています。
 
 ただし、都市計画法や市街化調整区域の主旨から、法令や運用指針の文章は非常に抑制的に書かれています。法令文を読んだだけでは、実際にどのように運用されているかはわかりにくく、現在では、その解釈と運用は自治体ごとに大きな違いがあるのが実情です。時代に合わせた先進的な自治体と、昔からの前例踏襲で変化することができない自治体との間では、同じ法令の運用だとは思えないくらいに違いがあります。

 その中で、秋田市は昔ながらの運用をしている自治体です。細かく見ていくと、実効性がなく論理的に破綻してしまっている制度や業務も見られます。社会環境に合わせた変化や工夫が十分とは言えない状況ですが、やる気にさえなれば、秋田市でも現行法の中で見直しを図る余地は様々にあります。
 
 私が今までに調べたり考えたりした中で、これは可能なはずだという見直しをいくつか紹介します。コストのかからない、制度と運用の工夫です。
 

1.都市計画法第34条1号の店舗の要件を見直す。

 1号店舗は、主に地域の住民を対象にするものと法令の文章にあり、秋田市では当該地域の住人で、店舗の利用客数の過半を占めなければならないという要件を定めています。公開されている文章では確認していないので、公式な文章にはなっていない、担当課内の前例踏襲の要件の可能性があります。現在の、人口が減ってしまった地域の住民だけで店を支えることは現実的では無いので、この要件だと地域の住民が利用できる店自体が成立せず、住民の利便性を確保すると言う法令の目的が損なわれることになってしまいます。法令の目的である、地域の住民の利便性の確保のためには、店舗が持続的に維持できる現実的な要件を定めることが必要になります。そのため、社会の変化に合わせて、柔軟な運用と業務を行う自治体が増えています。法令の目的を実現するためには、秋田市でも制度と業務の見直しが必要なのです。
 
 特殊能力でも無い限りは、事前に確認しようがない、当該地域の住人で客数の過半を占めなければならないとする要件を改め、地域の人に利用してもらえるように心がける事業姿勢や、地域の維持や活性化に資する方針を重視する、柔軟な対応に変えていく事が可能だと思います。地域の外からお客さんや利用者が来ることをマイナス要素とするような要件を、人口減少と空き家増加の問題に直面する地域や市民に押し付けるのは、たいへん不条理なことです。地域の維持と活性化のために、交流人口と関係人口を拡大する必要があるとされることとも矛盾します。もちろん、市街化調整区域の主旨を損なわないように、過度の開発にならないために、店舗が大規模にならないような面積制限等を設ける事なども考えられると思います。大規模にならないことは、地域の人を対象とする事を表す一つの形でもあります。また、地域に調和することも大切だと思います。
 
 他の自治体では対象となることの多い、飲食店やコンビニエンスストアが、秋田市では対象外とされています。私の仕事も対象外と言われていますが、その理由や裏付けは示されていません。他の自治体と比べて認める業種の幅が狭く、具体的に認められる業種の情報が公開されておらず、その時々の市役所職員が判断すると説明されるので、たいへん不透明で場当たり的な業務になっていることを感じます。秋田市役所としての1号店舗の対象業種を明確にして、制度の透明化を図ることも重要です。ただし、業種については法令に準じる事が必要ですので、対象となる業種はある程度限定されます。最新の情報産業分野の事業などには対応できないことが考えられます。今後も新しい分野の事業はもっと生まれてくる可能性がありますので、それらには、11号指定や12号指定などの別の枠組みで対応する事が考えられると思います。国土交通省の開発許可制度の運用指針では、余り細かい条件を定めすぎて、画一的な運用になることは望ましくないとされていますので、地域の声なども聞き、個別の状況に合わせて判断することも大切だと思います。
 
 2.都市計画法第34条11号の指定区域の開発緩和内容を見直す。

 離れ小島のような立地の11号指定区域で、第一種低層住居専用地域と同じ内容の緩和内容しか認めない秋田市の制度では、地域活性化の実効性が十分には発揮されず、住民の利便性の確保も難しくなってしまいます。11号指定区域内の空き家の賃貸住宅への用途変更は、制度開始から4年以上経過しても許可事例がありませんので、住むだけではない他の緩和の取り組みの強化も、視野に入れるべきだと思います。認められる店舗兼用住宅も、外から人が来ることがマイナス要素とされますが、すでに人が減ってしまっている地域では、その妥当性がありません。住居・店舗・事務所・宿泊施設・小規模工場などを認めている、同じ秋田都市計画区域の潟上市の例も参考にしながら、緩和内容の拡大を図るべきだと思います。
 
 独立した店舗・事業所なども認め、1号店舗の業種に含まれない、情報やデジタル分野などの新しい事業や、アート・クラフト分野のギャラリーやスタジオ・アトリエなどの、自然豊かな環境と親和性の高い施設を認めることなども、検討されるべきだと思います。市内の大学などで学んだ学生の様々な分野の起業などにも、対応できるようにすると良いと思います。1号店舗と同じく、過度の開発にならないように、面積制限を設けたり、地域に調和することを重視することも必要だと思います。 

 11号指定区域に家を建てる場合には、次のような条件があります。「配偶者など世帯構成員を含め居住可能な土地、建物を本市に所有していないこと」。秋田市内に他に家や土地を所有していると、11号指定区域に家を所有して住むことができないのです。都市計画課からは、理由についての回答も得ているのですが、その回答を見ても、このような制限をすることの合理性があるようには思えませんでした。二地域居住の促進の方針とも整合性がありませんので、この制度の見直しも必要だと思います。都市計画課からの回答の内容は、そのうちまとめて紹介したいと思います。
 
 秋田市の11号指定で建築可能な建物についてのpdfへ

 
 
3.開発許可制度の運用指針にある用途変更を活用する。

 1号店舗でも11号指定でもカバーできない場合は、用途変更の活用の取り組みで対応を図る事が有効だと思います。そのために、国土交通省の開発許可制度の運用指針にも、既存建築物の用途変更の例示があるのだと思います。この枠組みの中で秋田市が行っているのは、何故か、11号指定区域のみで空き家を賃貸住宅に用途変更することだけです。秋田市の地域活性化策と位置づけられていますが、賃貸住宅に用途変更した事例は、2019年1月の制度の運用開始から、2023年5月現在まで一件も無く、形だけのものになっています。家の所有者にとって、賃貸住宅に整備するにはお金のかかることですし、賃貸住宅の需要が見込めないことも考えられますから、積極的に賃貸住宅に用途変更する意味も理由も無いのではと思います。
 
 国土交通省の運用指針の用途変更の例示では、「等」という文字を使って自治体の柔軟な解釈が可能であるようにされています。国土交通省の担当課に確認したところ、空き家等を店舗等に用途変更することなども、自治体の解釈次第で可能です。これを利用しない手はありません。地域の維持と活性化に資するものであれば、柔軟に認める方向で良いのではないでしょうか。この用途変更の枠組みでも、情報やデジタル分野などの新しい事業や、アート・クラフト分野のギャラリーやスタジオ・アトリエなどの、自然豊かな環境と親和性の高い施設など、幅広く対象とすることが可能だと思います。産業振興部の農山村振興策でも、様々な分野と連携を図るとされています。住む、事業を営む、挑戦する。人にも地域にも、様々な取り組みにチャレンジできる可能性が生まれると思います。
 
 大阪府茨木市の事例を紹介します。秋田市とは異なり、国土交通省の開発許可制度の運用指針に書かれている内容に、ほぼ忠実な内容になっています。
 
 茨木市の市街化調整区域の既存建築物の用途変更についてのpdfへ
 
 
 
4.都市計画法第34条12号の区域指定を活用する。
 
 12号指定の活用は、より積極的な空き家対策になる可能性があります。兵庫県の実施例では、空き家が放置されずに適切に管理されることも目的の一つとして、12号指定が利用されています。空き家の除去や跡地の再利用を促進したり、空き家の柔軟な用途変更により「住民や移住者等の誰もが空家を活用し、迅速かつ円滑に起業・創業等ができる場を創出(兵庫県の資料より)」する事が可能になっています。対象業種も広く考えることができます。用途変更だけではなく、「空家対策の推進に関する特別措置法」でも求められている、適切な空き家の管理の推進も図ることができる内容なので、より総合的な空き家対策・地域の活性化対策になっていると思います。古い法令で十分に対応できないことは、自治体の責任と工夫で対応できるようにすることができるのです。
 
 12号指定にあたっては、11号指定と異なり、連たんしている住宅の戸数等の条件はありません。11号指定の対象外の市街化調整区域についても、12号の区域指定をすることが可能です。秋田市の河辺・雄和地域の例も含めて、自治体の様々な実施例を見る限り、12号指定の内容は柔軟に定めることができるようですので、地域の実情に合わせて幅広く内容の検討が可能だと思います。地域に合わせた内容の12号指定を、河辺・雄和地域以外でも活用することができれば、秋田市内の開発緩和の地域格差が軽減され、市民に対しての制度の不公平さの解消にもつながると思います。
 
 
 
 
5.二地域居住に11号指定区域の賃貸住宅を使う方針を見直す。
 
 論理的にも実態としても破綻しているものですが、11号指定区域の空き家を賃貸住宅に用途変更して、その賃貸住宅の利用を二地域居住策にしていると、都市計画課から説明されています。でも、用途変更の制度開始から4年以上の間、賃貸住宅への用途変更の事例が実は一件もなく、筋の通らない二地域居住推進策になっています。冗談のような業務ですが、担当部署からの正式な回答の中に書かれていました。
 
 また、家を借りるか買うかの選択の権利を、一方的に制限するような内容ですので、見直すべきだと思います。使われない家や土地が増えすぎて困っているのですから、複数の家を所有できる人や家族には複数所有してもらい、活用してもらったほうが良いはずです。過度の権利の制限に繋がり、実効性がない制度や対策は、見直すべきだと思います。
 
 
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 私の個人的な考えではありますが、空き家の利活用の促進のために、現在の都市計画法の枠組み内でもできるはずのことが、以上のように複数あります。どのような内容で、どのように組み合わせて実施するかが、自治体職員の腕の見せ所だと思います。秋田市では、法令の解釈や運用を見直す取り組みがほとんど実施されておらず、手付かずに近い状態ですので、その気になれば現在の職員は存分に力を発揮することができます。
 
 ただし、そのためには、市街化調整区域の維持と活性化や、空き家の利活用の方向性や理念を明確にすることが大切です。 現在の社会問題に対応し、解決を図っていく積極的な姿勢が必要になると思います。目指すものが定まれば、そのための方法が様々に考えられると思います。充実した補助金制度などの、予算措置が必要な空き家対策は難しいかもしれませんが、許認可の制度や運用は工夫次第です。
 
 
市街化調整区域の環境維持の目的が同じでも、
成長期と衰退期では必要な対策の方向性が異なる 。
 
  1968年に制定された都市計画法は、過度な開発を防ぎ地域の環境を維持するために、市街化調整区域の開発行為を厳しく制限する内容でつくられました。市役所の職員は、市街化を防止するために市街化調整区域が定められているから、空き家の利活用の柔軟な推進も認められないといった説明をする時があります。でも、市街化調整区域の真の目的は、いつの時代でも地域の環境の維持であると私は思います。法令の制定当時とは社会が大きく変わり、人口減少や高齢化の進行する現在でも、市街化調整区域が地域の環境の維持を目的として存在していることには変わりありません。そのため、人口増加や経済成長の中で、右肩上がりだった昔の成長期の社会と、人口減少や経済の縮小に直面する、現在の右肩下がりに急速に衰退する社会では、同じ法令のもとで同じ目的を遂行するために、まるで真逆とも言える対応に迫られる現実があります。上記のような図にしてみましたが、目的も法令も変わっていないのに、対策の方向を大きく変えなければ、市街化調整区域の環境の維持はできません。
 
 急速な人口減少で地域の衰退が加速している現在では、積極的に開発制限を緩和し、空き家や土地の利活用を推進しないと、地域の環境の維持ができなくなっています。市役所の職員が、前例踏襲で昔のままの考え方で業務を行っていては、法令の目的と真逆の環境の悪化を招くことになってしまいます。空き家の増加は地域の衰退や荒廃につながり、環境や景観の悪化や防災面での大きなリスクにもなります。社会環境の変化の中で、求められる業務が大きく変化していることを、市役所の職員は明確に認識する必要があると思います。私が市役所の職員と話をしてきた中では、この部分がかなり不十分だと感じています。
 
 秋田県は、日本一の人口減少率が今後も長く続き、全国で最も衰退が顕著になっていく地域です。秋田市も衰退傾向が続いていく予測ですので、地域の存続をかけて、県都として率先して、空き家対策や既存集落の維持と活性化に取り組む必要があります。
 
 すでに、地域の衰退や空き家問題は深刻な状態になっていますから、ここで制度や業務を見直すことができなければ、 ますます深刻な事態になっていくと思います。本当に恐ろしいことです。市民や地域は社会の急激で深刻な変化に直面し、何とかしたいと動いています。あとは秋田市役所次第です。 市役所には、スピード感のある迅速で的確な対応が求められます。
 
 これでいったい何ができるのだろうかと思わせる、古い法令の非常に抑制的な文章を、市民や地域のためのものに変換し、現在の社会の中で機能するようにしていくのが、市役所の仕事だと思います。古い法令の内容そのままでは、対応できないことがあるのであれば、それを放置せずに、できる方法を考え実施するのが、市役所の責任なのだと思います。理念があり、論理性があり、合理性があり、そして課題解決のために実効性もある、そういう制度と業務を、秋田市役所には期待したいですし、やる気にさえなれば、できるはずです。